申立てから免責決定までの全ステップを解説。
借金が大きく膨らんでしまって支払いが苦しくなった場合、最終的には「自己破産」をすると、借金を全額「チャラ」にしてもらうことができます。
ただ、自己破産には「同時廃止」と「管財事件」という2種類の手続きがあり、どちらになるかによって、手続きの流れも変わってきます。また、世の中では自己破産に対する誤解も多いので、正しい知識を持っておくことが大切です。
今回は、自己破産申立から免責まで、裁判所での自己破産の手続きを、1から10までわかりやすく解説します。
1.自己破産とは
自己破産は、借金を整理するための「債務整理」手続きの1種です。
自己破産をすると、裁判所から「免責」という決定をしてもらうことができます。
免責決定があると、破産者は、基本的にすべての債務の支払い義務がなくなります。
そこで、多額の借金があっても、一切返済が不要となります。収入が0でも、自己破産をしたら支払いの必要がなくなるので、解決することができるのです。
数ある債務整理の中でも「借金がなくなる」効果があるのは自己破産のみです。自己破産は、借金問題を解決するための最終手段だと考えると良いでしょう。
2. 同時廃止と管財事件
それでは、自己破産をするときには、どのような流れになるのでしょうか?
実は、自己破産の手続きには「同時廃止」と「管財事件」の2種類があり、このどちらになるかによって、手続きの流れが異なってきます。
そこでまずは、同時廃止と管財事件の違いについて、押さえておきましょう。
2-1.同時廃止とは
同時廃止とは、財産がほとんどない人や、特に問題がない人が破産するときに利用する、簡単な破産手続きです。
同時廃止になった場合、自己破産をしても財産が無くなることはありません。かかる期間も短いですし、費用も安いです。
全体の件数で見ると、全国的に、管財事件より同時廃止になる方の方が多いです。
2-2.管財事件とは
管財事件とは、一定以上の財産がある人や、浪費・ギャンブルなどの問題を抱えた人などが破産するときに採用される手続きです。
管財事件になった場合には、「破産管財人」という人が選任されて、破産者の財産を預かります。そして、換価(現金化)して債権者に配当をしてしまうので、破産者の財産はなくなります。
管財事件になると、期間も長くかかりますし、費用も高額になりますから、破産者にかかる負担は重くなります。
自己破産するときには、なるべくなら管財事件になるよりも同時廃止で解決できた方が、破産者にとっては楽です。
3.自己破産の手続きの流れ
自己破産をするときには、一般的に弁護士や司法書士に相談をして、手続を進めてもらうものです。そこで、以下では弁護士に依頼することを前提に、自己破産の手続きの流れを説明していきます。
3-1.まずは弁護士に依頼する
まずは、自己破産申立を依頼する弁護士を探さなければなりません。
インターネットサイトや法テラス、弁護士会の相談や紹介などを利用して、良い弁護士を探しましょう。法律相談を受けて、自己破産を依頼するところから、すべてが始まります。
3-2.弁護士が、受任通知を送る
弁護士に自己破産を依頼すると、弁護士が各債権者に対して「受任通知」を送ります。
このことにより、サラ金やカード会社などの債権者からの督促が止まります。「弁護士の介入後は、貸金業者は債務者に直接支払い請求をしてはならない」と法律で決まっているからです(貸金業法21条1項9号)。
支払いをしなくても、電話もかからなくなりますし、郵便も届きません。
また、弁護士が受任通知を送ると、その時点で債権者に対する支払いもストップします。
このように、弁護士に依頼すると、支払いをしなくて良くなり督促もなくなるので、破産者の生活には相当余裕が出てきて、生活を再建していくことができます。
3-3.書類の準備と申立
弁護士が受任通知を送ったら、自己破産の必要書類を集めなければなりません。
自己破産をするときには、非常にたくさんの書類が必要なので、弁護士の指示に従って確実に集めていきましょう。作成が必要な破産申立書や債権者一覧表などの書類は、弁護士が作成してくれます。
書類が揃ったら、申立を行います。申立の手続きは、弁護士がしてくれるので、破産者本人が裁判所に行く必要はありません。
3-4.破産審尋
破産を申し立てると、裁判所で「破産審尋」という手続きが行われることがあります。
破産審尋とは、裁判官が破産者と面談をして、いろいろな質問をし、破産手続きを開始するかどうかの参考にするための手続きです。
さほど難しいことを聞かれるわけではなく「どうして借金が増えたのか」「どのくらいの院額になっているのか」などの基本的な事項を尋ねられます。時間は、だいたい5分くらいです。裁判所によっては、破産審尋が行われないこともあります。
3-5.破産手続き開始決定
破産審尋が終わり、特に問題がなかったら、裁判所が「破産手続き開始決定」をします。これにより、裁判所での破産手続きが始まります。
破産手続き開始決定後の流れは、同時廃止と管財事件で異なってくるので、以下では分けて解説します。
3-6.同時廃止の場合
免責審尋を受ける
同時廃止になると、破産手続き開始決定が出ると同時に、破産手続きは終わります。
破産とは、債務と財産を清算する手続きのことですが、同時廃止の場合、破産者に財産がないので、破産手続きではすることがなく、すぐに終結するのです。
そして、引きつづき「免責」についての判断が行われます。そのために、裁判所で「免責審尋」が開かれます。免責審尋とは、裁判官が、免責を認めるかどうか判断するために破産者に質問をする手続きです。
たくさんの破産者が集められて、集団で免責審尋が行われることもありますし、個別で審尋が行われることもあります。
聞かれるのは、借金をしてしまったことについてどう思っているのか(反省しているのか)とか、今後借金しないためにどのようなことに気をつけていきたいか、などのことです。
免責審尋も、さほど長い時間はかかりません。だいたい5~10分程度です。
免責審尋の結果が悪かったから免責を受けられなくなる、ということも普通はありません。申立を依頼した弁護士によく相談をして、対応すると良いでしょう。
免責決定
免責審尋が終わると、速やかに裁判所が免責決定を出してくれます。免責決定があると、正式に債務の支払い義務がなくなったということですから、晴れて借金生活から解放されることになります。
3-7.管財事件の場合
次に、複雑な方の破産手続きである、管財事件の流れを確認しましょう。
破産管財人と面談する
管財事件では、破産手続き開始決定が下りると、「破産管財人」が選任されます。
破産管財人とは、破産者の財産を現金化して債権者に配当したり、破産者の様子を観察して、免責を認めて良いかどうかの意見を裁判所に出したりする人です。通常は、裁判所の管轄内の弁護士から選任されます。
破産管財人が選任されたら、破産者は、すぐに破産管財人と面談をしなければなりません。
弁護士に自己破産を依頼していたら、弁護士が日程や時間などの段取りを整え、一緒に来て話をしてくれるので、安心です。
また、このとき、破産管財人に対し、破産者の財産や資料をすべて預けることになります。そこで、この時点で破産者の財産はなくなってしまいます。
破産管財人が、換価作業を進める
破産管財人との面談が終わると、管財人は、破産者の財産を現金化する作業を始めます。
たとえば、預貯金を解約したり、生命保険を解約したり、不動産や動産などを売却したりします。売掛金や貸付金があったら、破産管財人が回収します。
また、破産管財人の選任後は、破産者宛の郵便物は破産管財人の事務所に届くようになります。
債権者集会、財産状況報告集会が開かれる
破産手続き開始決定が出てから2~3ヶ月くらいすると、裁判所で債権者集会・財産状況報告集会が開かれます。
これらの会では、破産管財人から、破産手続きが進んでいることや、換価の進捗状況などが説明されます。
債権者集会なので、債権者が出席することもありますが、債権者がサラ金やカード会社などの場合、出席しないことがほとんどです。
破産者本人は出席しなければならないので、事前に弁護士から日程の予定を聞いたら、その日は必ず空けておくようにしましょう。自己破産を弁護士に依頼していると、弁護士も一緒に出席しますし、代わりに発言してくれることなどもあるので安心です。
債権者集会や財産状況報告集会は、破産管財人による換価作業が行われている間、何度か開かれます。第1回目以降の頻度は、だいたい1ヶ月に1回程度です。
配当実施
破産管財人がすべての財産の換価作業を済ませたら、裁判所が配当期日を指定して、債権者への配当が行われます。配当は、破産管財人が行うので、破産者が関与することはありません。
また、配当期日には、特に集会は開かれないので、裁判所に行く必要もありません。
管財人が集めた財産が配当するに足りない場合には、配当は行われません。
破産手続きの終結
配当が終わったときや、財産が足りないので配当が行われないことが決定したときには、破産手続きが終結します。
免責決定
破産手続きが終結すると、速やかに裁判官が免責するかどうかの判断をします。このとき、破産管財人から「免責に関する意見書」が提出され、裁判官はその内容を見て、免責を認めるかどうかを決定します。
免責決定が下りると、晴れて債務の支払い義務がなくなるので、正式に借金から解放されたこととなります。
4. 自己破産の必要書類は?
自己破産をするときには、非常にたくさんの書類が必要です。細かくはケースによっても異なりますが、だいたい以下のような書類を用意しなければなりません。
- 戸籍謄本
- 住民票(発行後3ヶ月以内)
- 給与明細書(直近3ヶ月分)
- 源泉徴収票(直近2年分)
- 確定申告書(直近2年分)
- 住民税の証明書(直近2年分)
- 家計収支表(直近2ヶ月分)
- 預貯金通帳、取引明細書(直近1年分)
- 生命保険証書
- 解約返戻金証明書
- 車検証
- 車の査定書
- 株式、投資信託などの評価書
- 退職金証明書
- 不動産の全部事項証明書
- 固定資産税評価証明書
- 不動産の査定書
すべてのケースですべての書類が必要というわけではありませんが、必要なものはすべて揃えないと、裁判所は「破産手続き開始決定」を出してくれません。
どのような書類が必要かや、集める方法については弁護士が教えてくれるので、指示に従って早めに集めてしまいましょう。
5.自己破産にかかる期間
自己破産をするときにかかる期間は、同時廃止と管財事件とで大きく異なります。
同時廃止の場合には、弁護士に依頼してから申し立てまでは1~3ヶ月程度、申立後免責決定までの期間は3ヶ月程度です。
そこで、全体でも4~6ヶ月あれば、自己破産手続きが終わって借金を免除してもらうことができます。
これに対し、管財事件の場合には、破産申立後、免責決定が出るまでに、6ヶ月以上かかることが普通です。
8ヶ月や10ヶ月くらいかかることもあります。
そこで、管財事件になると、弁護士に依頼してから免責決定が下りるまで、だいたい7ヶ月~1年くらいかかってしまうことになります。
6.自己破産の「免責不許可事由」について
ところで、自己破産には「免責不許可事由」があります。
免責不許可事由とは、該当する事情があると、「免責」を受けられなくなってしまうものです。
免責を受けられなかったら、借金返済義務がなくならないので、自己破産する意味がありません。
免責不許可事由には、以下のようなものがあります。
- 浪費やギャンブルによって、大きな借金を作ったケース
- 自己破産前に、闇金などで、あえて高額な借金をしたケース
- 自己破産前に、嫌がらせで財産を壊したり隠したりしたケース
- 裁判所に虚偽の説明をしたケース
- 破産管財人の業務進行に協力しなかったケース
- 7年以内に破産をして免責決定を受けているケース
- 自己破産前に、一部の債権者にのみ、支払をしたり担保設定をしたりしたケース
特に、浪費やギャンブルによって借金ができたため、免責不許可事由に該当してしまう例が非常に多いです。
ただし、自己破産では、浪費やギャンブルがあったからと言って、免責を受けられなくなるということはありません。
破産法には「裁量免責」という制度が認められているからです。
裁量免責とは、「免責不許可事由があっても、裁判所の裁量によって免責を認めても良い」という制度です。
つまり、浪費やギャンブルによって借金をしていても、裁判所が「免責を認めて良い」と判断したら、免責を受けることができるのです。
実際の運用としては、何らかの免責不許可事由があっても、ほとんどのケースで裁量免責されています。
そこで、浪費やギャンブルなどの免責不許可事由があっても、自己破産を躊躇する必要はありません。
ただ、あまり酷い免責不許可事由があると、財産がほとんどなくても、管財事件となって、破産管財人による観察が必要になることがあります。
また、2回以上同じ免責不許可事由に該当する問題(パチンコなど)を起こして、破産申立をした場合、2回目の破産は認められないこともあるので、注意しましょう。
それ以外の通常の理由(生活費不足など)の場合、2回目でも3回目でも自己破産することはできます。ただし、前回の自己破産から7年以上開ける必要があります。
7. 自己破産の「非免責債権」について
ところで、自己破産をすると、基本的にすべての債務がなくなると思われていますが、一部なくならない債権があるので、注意が必要です。
このように、自己破産してもなくならない債権のことを「非免責債権」と言います。
非免責債権は、免責不許可事由とは異なります。免責不許可事由があると、そもそも免責を受けられないので、債務が一切無くなりません。すべてそのまま残ります。
これに対し、非免責債権がある場合、免責は受けられるので、基本的に債務は無くなりますが、非免責債権に該当する債務のみが残ることとなります。
自己破産の非免責債権は、以下のようなものです。
- 税金、健康保険料
- 罰金
- 悪意で加えた不法行為にもとづく損害賠償請求権
- 故意や重過失で加えた身体や生命に対する不法行為にもとづく損害賠償請求権
- 婚姻費用
- 養育費
- 扶養料
- 給料
- あえて債権者名簿に記載しなかった債権者の債権
特に注意しなければならないのが、税金や健康保険料、罰金です。
住民税や所得税、固定資産税などを滞納していたり、健康保険料や年金保険料が未納であったりすると、自己破産をしても督促されますし、滞納処分(差押え)もされてしまいます。
そこで、こうした支払いを滞納しているなら、なるべく早めに支払をしてしまいましょう。自己破産前や自己破産手続き中でも支払いをすることができます。
8.家族に知られず、自己破産することができる?
借金をしている方は、家族に秘密にしていることが多いです。
世間的には「自己破産すると家族に知られる」と思われていることがありますが、本当でしょうか?
実は、自己破産は、家族に知られずに進めて免責を受けることも可能な手続きです。
そのためには、弁護士に依頼する必要があります。
弁護士に依頼すると、弁護士が受任通知を送ったタイミングで、債権者からの督促が止まります。電話もかかってこなくなりますし、郵便物も一切届きません。
そこで、自宅に届いた郵便物を家族に見られて借金がバレるおそれがなくなります。
また、弁護士に依頼すると、必要な書類作成や裁判所、破産管財人とのやり取りなどは、すべて弁護士が進めてくれます。
債務者は、普通に自宅にいて普段通り生活をしていたら良いので、家族に不審に思われるきっかけがありません。
なお、自己破産をすると、「官報」に氏名等が載りますが(官報公告)、実際に官報を見ている一般人はほとんどいないので、官報公告によって家族にバレることもありません。
以上のように、家族に知られずに自己破産することは十分に可能なので、安心して自己破産を弁護士に依頼しましょう。
9.自己破産でよくある誤解
自己破産は、世間でよく誤解されています。
9-1.自己破産すると、海外旅行、引っ越しができなくなりますか?
いいえ、そのようなことはありません。
管財事件になったときには、自己破産手続き中、海外旅行や引っ越しを制限されますが、破産手続きが終わったら自由になります。制限を受けるのは、手続きが続いている数ヶ月だけです。
同時廃止では、そもそも旅行や引っ越しの制限はありません。
9-2.自己破産すると、就職や転職ができなくなりますか?
いいえ、そのようなことはありません。
自己破産手続き中は、弁護士や司法書士、税理士などの士業や警備員、生命保険外交員、宅建業や旅行業、貸金業などの一部の仕事はできなくなりますが、手続きが終わったら、またどのような仕事にも就くことができます。
また、ときどき誤解されていますが、公務員になれないということもありませんし、辞めないといけないということもありません。会社役員になることもできます。
9-3.自己破産すると、戸籍や住民表に記載されますか?
いいえ、そのようなことはありません。自己破産をしても、公的な書類に何らかの記載がされることは一切ありません。
普段の生活で周囲に「破産者」とバレるきっかけは、ほとんど0と考えて大丈夫です。
9-4.自己破産をすると、一生ローンやクレジットカードを使えないのですか?
いいえ、そのようなことはありません。自己破産をすると、一定期間はローンやクレジットカードを利用できなくなりますが、期間が経てば、また借入できるようになります。
ローンやクレジットカードを使えない期間は、だいたい5年~10年程度です。カードやキャッシングの場合には5年程度、銀行ローンの場合には10年程度と考えると良いでしょう。
10.自己破産を成功させるなら、弁護士に依頼するのがお勧め
自己破産をするときには、本人が自分一人で進めるのは難しいです。
自己破産には、必要書類もたくさんありますし、自分で自己破産しようと思ったら、自分で債権者や裁判所とやり取りをして、手続を進めていく必要があります。
破産は、「破産法」という法律に従ってきちんと進める必要がありますが、破産者本人は法律に詳しくないので、うまく手続を進めることができないことが多いです。
自分で手続きをすると、債権者からの督促が止まらないので、家族に知られずに手続きをするのも無理です。
さらに、自分で手続きすると、手続きが滞ることが予想されるので、財産がなくても「管財事件」にされてしまうこともあります。
そうすると、費用もかなり高額になります。たとえば、「管財予納金」という費用は、弁護士に依頼すると20万円程度で済みますが、本人が申し立てると50万円になってしまうこともあります。
このように、自己破産をするときに、本人が自分で申立をしても、良いことはほとんど1つもありません。たとえ、弁護士費用を払っても、その方が得になります。
これから自己破産をしようとしているなら、早めに債務整理に強い弁護士を探して借金問題について、相談をしてみましょう。