申立てから支払い開始までの全ステップを解説。
消費者金融やカード会社などから借金をかさねてしまい、支払いが苦しくなったら「債務整理」することで、解決する必要があります。
債務整理には、「特定調停」という方法がありますが、特定調停はどのような流れとなり、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
今回は、裁判所で特定調停をするときの手続きの流れやメリット・デメリット、利用すべきケースなどを、わかりやすく解説します。
1.特定調停とは
特定調停は、借金を整理するための債務整理の1種です。
調停の中でも、借金の支払い方法を決め直すという「特定の事項」に限られたものなので、特定調停と言います。
特定調停をするときには、簡易裁判所で「調停委員」という人を介して、債権者と話し合いをします。
調停委員が間に入るので、債権者と直接やり取りをする必要がありません。何度か話し合いを重ねて、双方が合意することができたら、「調停」が成立します。
その後、合意した内容に従って、支払いを開始していきます。
調停が成立すると、裁判所で「調停調書」が作成されて、自宅宛に送付されてきます。
特定調停後の支払い期間は、だいたい3年程度となることが多いです。
特定調停をすると、調停成立後の利息をカットしてもらうことなどができて、借金の返済額が減額されます。
そこで、月々の返済額も減り、それまでより楽に支払いを継続していくことができる可能性があります。
ただ、途中で支払いができなくなると、債権者から督促や取り立てを受けることになってしまいますから、借金の整理に失敗してしまいます。
2.特定調停の手続きの流れ
特定調停をするときには、以下のような手順で手続を進めていきます。
2-1.裁判所に相談に行く
特定調停をするときには、弁護士に依頼せずに自分で申立をされる方が多いです。
その場合でも、誰にも相談をせず、自分一人ですべての準備を整えることは大変です。
そこで、まずは申立前に、裁判所に行って、書式をもらったり必要書類について聞いたり、かかる費用と郵便切手代などを教えてもらったりしましょう。
特定調停を申し立てる先の裁判所は「簡易裁判所」です。
基本的に、債権者の住所地の裁判所となりますが、複数の債権者に対して申立をするときには、そのうち1つの債権者の住所地を管轄する簡易裁判所で特定調停をすることができます。
自分にとって都合の良い場所の簡易裁判所を利用すると良いでしょう。
2-2.書類作成と準備
裁判所で必要なことを教えてもらったら、特定調停申立書やその他の書類を作成しましょう。
特定調停で必要な書類は、以下の通りです。
- 特定調停申立書
- 特定債務者であることを明らかにする資料等
- 関係権利者一覧表
- 住民票
- 債権者の商業登記簿謄本(全部事項証明書)
- 契約書、領収証、請求書の写し等の資料
- 財産に関する資料
特定調停申立書、特定債務者であることを明らかにする資料等、関係権利者一覧表については、申立人本人が作成しなければなりません。その他の書類は、収集して提出します。
財産に関する資料は、たとえば預貯金通帳の写しなどですが、具体的にどのようなものがどこまで必要かは、裁判所の運用やケースによっても異なります。
事前に確認をして、必要なものを揃えましょう。
2-3.申立
書類の作成と準備ができたら、申立をします。
申立の際には、書類を簡易裁判所に持参しても良いですし、郵送でも提出できます。
持参した方が、不備があったときその場で訂正などができて便利なので、遠方でなければ持参する方が良いでしょう。申立の際には、何かあったときのため、印鑑も持っていきましょう。
特定調停申立の際には、費用もかかります。債権者1社について500円の収入印紙と、連絡用の郵便切手です。正確な金額は、裁判所の書記官に尋ねて確認しましょう。
2-4.債権者への通知
特定調停を申し立てると、簡易裁判所での担当部署や調停委員が決まります。
調停委員とは、調停を進めていく人です。通常は、比較的年配の人が2人、選ばれます。
そして、裁判所から各債権者に対し、通知が送られます。
この通知は、債務整理の弁護士による「受任通知」と同じようなもので、「特定調停が始まりました」ということを連絡するためのものです。
そこで、裁判所から通知が送られると、債権者は債務者に直接督促をしてこなくなります。
また、同時に、債権者に対しては債権届が促されますので、債権者は、裁判所に対して債権届や取引履歴を提出してきます。
2-5.呼出状が送られる
申立をすると、しばらくして、簡易裁判所から「第一回期日の呼出状」が届きます。
この日には、裁判所に行って、担当の調停委員と面談をしなければなりません。
そこで、その日の予定は必ず空けておいて、遅れずに簡易債場所に行きましょう。
2-6.第1回期日
第一回期日が開かれるのは、だいたい調停申立後、1ヶ月くらい後です。
この日に出頭するのは、債務者のみで、債権者は出頭しません。債務者が裁判所に行くと、担当の調停委員と話をすることになります。
このとき、債務者が提出している資料や債権者からの届出内容を見ながら、残った借金の返済方法を決めます。
調停委員からは、家計の収支がどのようになっていて、毎月どのくらい返済していけるのか、どうやって返済していく予定なのかなど、いろいろと聞かれるので、きちんと整理しておきましょう。
2-7.第2回以降の調停期日
第2回目の期日(調停)には、債務者だけではなく債権者も出席します。
このとき、間に調停委員が入って話し合いをすすめてくれるので、直接貸金業者の担当者と話をする必要などはありません。
そして、事前に立てておいた計画にもとづいて、返済していくことを提案します。
このとき、債権者が提案内容を受け入れたら、その内容で調停が成立します。
1回では合意に至らない場合には、2回目、3回目の期日を入れて、話し合いを続行し、双方の調整を行っていきます。そして、合意ができたタイミングで調停が成立します。
2-8.調停成立
調停が成立したら、その場で調停は終わります。その日はそのまま帰ってよく、後日、自宅宛に「調停調書」が送られてきます。
その後、調停で決まった内容に従って支払いをしていくことになります。
2-9.17条決定
17条決定とは
特定調停は、合意によって解決するよりも「17条決定」という方法で終結することが非常に多いです。
17条決定とは、民事調停法17条にもとづく決定で「調停に代わる決定」と呼ばれるものです。
調停では、原則的に、当事者の双方が裁判所で合意しない限り、調停が成立せず、解決することができません。
ただ、調停で、ほとんど合意ができかけているのに、最終的に会社の稟議が通らないとか、出頭ができないなどの事情で調停が成立しないことがあります。このような場合に、すべて「不成立」としてしまうと、非常にもったいないです。
調停が不成立になるということは、決裂してしまったということなので、何の解決にもならないからです。
そこで、一定のケースでは、裁判所の裁量で、解決内容を決めてしまうことができるのです。それが、17条決定です。
特定調停でも、事前に提出された申立書や資料、債権者からの反応をもとに、債権者が取等しなくても、裁判所が17条決定してしまうケースが非常に多いです。
異議申立
17条決定が出た場合、当事者は「異議申立」をすることができます。
異議申立があると、決定内容は効力を失い、何も解決できないままとなります。
特定調停でも、17条決定が出た後、債権者がその内容に納得できない場合や、債務者として「その内容では支払えない」と考える場合には、どちらも異議申立をして、決定の効力を失わせることができます。
2-10.不成立
特定調停をしても、合意ができないことがあります。その場合には、調停は「不成立」となって終わってしまいます。
不成立になると、何も解決されないので、借金は従前通り、そのまま残ってしまいます。
特定調停では、不成立になることもそれなりに多いので、注意が必要です。
2-11.取り下げ
特定調停は、意外と取り下げで終わるケースも多いです。
いったん申立をしても、効果的な返済計画を立てることができなかったり債権者の反応が悪かったりして、結局取り下げてしまうのです。
取り下げをすると、調停は始めからなかったことになりますから、借金は完全に元のままです。借金問題を放置しておけない場合には、個人再生などの別の手続きを検討する必要があります。
3.特定調停のメリット
特定調停をすると、どのようなメリットがあるのでしょうか?
3-1.安く債務整理できる
まずは、債務整理にかかる費用が安くなることです。
特定調停では、多くの人が弁護士に依頼せずに自分で手続きをすすめます。
すると、弁護士費用がかかりません。債務整理にかかる費用の大部分は弁護士費用ですから、弁護士費用が不要になると、それだけで大きく費用を節約できます。
また、特定調停は裁判所を利用した手続きですが、手続き自体にかかる費用(実費)も安いです。
裁判所に支払うのは、債権者1社について500円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手代のみです。
それと、裁判所への往復の交通費くらいですから、特定調停をするときには、1万円以下で済ませることも十分に可能です。
3-2.弁護士に依頼しなくて良い
債務整理をするとき、弁護士に依頼しなければならない点をデメリットと考えることが多いです。
弁護士に依頼すると、費用もかかりますし、弁護士を探したり、相談をしたりする手間もかかってしまうからです。
特定調停の場合には、弁護士に依頼する必要性が低いです。
特定調停では、裁判所から債権者宛に通知と呼出状を送ってくれるので、債務者が直接債権者に連絡する必要がありません。
また、話し合いの際にも、調停委員が間に入ってくれるので、債務者が直接交渉をする必要がありません。このことにより、債権者と債務者の力の差が埋められることになります。
また、特定調停は、裁判所を使った手続きの中では、かなり簡単な部類になります。
裁判所に聞きながら、債務者が1人でも十分にできるレベルです。
このようなことから、特定調停であれば、弁護士に依頼せずに債務者が1人で進めることができるのです。
このことも、メリットの1つと言えるでしょう。
3-3.債権者からの督促が止まる
特定調停をすると、債権者からの督促が止まります。
裁判所が通知を送った時点で、債権者は債務者に対する直接の取り立てをしなくなるからです。
また、その時点で、債権者に対する支払いも一旦停止します。このように、支払いと督促を止めることにより、借金で崩れてしまった生活や家計を立て直すことができます。
3-4.官報公告されない
債務整理の中でも、より強力な効果を持った個人再生や自己破産の場合「官報公告」されてしまいます。
官報公告とは、政府が発行している新聞のような「官報」に、債務者の氏名や債務整理に関する情報が掲載されてしまうことです。
官報は、ネットなどで誰でも閲覧することができるので、官報公告されると、周囲に破産や個人再生がバレてしまう可能性があります。
特定調停の場合、裁判所を使った手続きではありますが、官報公告されることがありません。プライバシーを気にされる方には安心と言えるでしょう。
3-5.対象とする債権者を選べる
特定調停をするときには、対象とする債権者を自由に選ぶことができます。
たとえば、親族や知人友人、元の恋人などから借金をしているときには、それらを外して貸金業者などだけを対象とすることができます。
また、保証人がついている借金がある場合には、その借金を外して整理することができますし、車のローンや住宅ローンなどを外して手続きすることもできます。
そうすれば、保証人に迷惑をかけることもありませんし、車や家がなくなることもありません。
個人再生や自己破産をすると、必ずすべての債権者を対象にしなければならないので、このような選り好みはできません。
個人の債権者や保証人には大きな迷惑をかけることになりますし、車や家はなくなってしまうことになります。
このようなことを考えると、対象を選べる特定調停にはメリットがあると言えます。
4.特定調停のデメリット
特定調停は、デメリットも多い方法なので、正確に理解しておきましょう。
4-1.借金があまり減らない
まず、特定調停をしても、借金はあまり減りません。
特定調停でカットできるのは、調停成立後の利息が主となります。借金の元本は全く減りませんし、利息のカットすら渋られることがあります。
4-2.支払いが楽にならない
特定調停をしても、あまり支払いが楽にならない方が多いです。
そもそも、特定調停をしてもあまり支払額が減らないことも問題ですし、返済期間を大幅に伸ばすことが難しいからです。
特定調停後の返済期間は3年程度とすることが多いのですが、それだと、「今とあまり変わらない」ということもよくあります。
かといって、返済期間をあまり延ばすと、債権者がなかなか納得しないので、調停を成立させることが難しくなってしまいます。
4-3.手間がかかる
特定調停は、弁護士に依頼せずに自分で手続きすることもできますが、その代わりに非常に手間がかかります。
まずは、特定調停申立書、特定債務者であることを明らかにする資料、関係権利者一覧表という専用の書類を作成せねばなりません。
また、申立後も、少なくとも2回以上は簡易裁判所に通って、自分で調停委員に対し、いろいろと説明をしたり意見を言ったりしなければなりません。
調停では、1回の期日が2時間くらいかかるので、たとえば会社員の場合、半日は会社を休む必要があるでしょう。
ふだん忙しく働いている人にとっては、負担の大きな手続きとなります。
4-4.問題を解決できない可能性がある
特定調停をしても、必ず借金問題を解決できるとは限りません。
そもそも、調停は話し合いの手続きですから、債権者と債務者が合意しない限り、調停は不成立になり、問題は解決されないまま放置されてしまいます。債務整理を目的とした特定調停でも、そのことは同じです。
また、特定調停には17条決定がありますが、これに対しても異議申立をすることができます。異議申立があると、やはり調停の効力はなくなるので、何も解決しません。
このように、調停で問題が解決されない場合、借金問題は放置されてしまうので、また元のように債権者から督促や取り立てが来る生活に戻ります。
結局、個人再生や自己破産などの別の手続きを検討することになりますが、それであれば、特定調停にかけた数ヶ月の時間や手間、費用が無駄になってしまいます。
4-5.過払い金請求ができない
債務整理手続きをしていると、「過払い金」が発見されることがときどきあります。
過払い金とは、過去に利息制限法という法律の定める利率を超えて高い利息を支払っていた場合に、払いすぎた利息のことです。
過払い金は、本来支払う必要のないお金ですから、過払い金が発生していたら、「過払い金請求」をして取り戻すことができます。
ただ、特定調停の手続きの中では、過払い金請求をすることができません。
過払い金を取り戻すには、裁判外で請求をするか、別に過払い金請求訴訟をする必要があります。
このようなことは大変な手間となりますし、特定調停のデメリットと言えるでしょう。
4-6.強制執行される可能性がある
特定調停で、調停や17条決定によって借金の支払い方法が決まったら、それらの内容は「調停調書」や「決定書」という裁判所の書類としてまとめられます。
調停調書などの裁判所の書類には「強制執行力」があります。
強制執行力とは、債務者が定められた支払をしないときに、債権者が債務者の資産や債権を差し押さえることができる効力です。
つまり、特定調停をすると、定められたとおりに支払いをしないとき、債権者からいきなり預貯金や生命保険、不動産や給料などを差し押さえられる可能性がある、ということです。
このようなことは、任意整理、個人再生、自己破産のどの債務整理手続きにも見られない、特定調停特有の非常に大きなデメリットです。
特定調停をしたら、必ず決められた通りに確実に返済をしていかないと、非常に危険です。
5.特定調停の利用件数と終了原因
5-1.特定調停の申立件数の推移
以上のように、特定調停には、メリットもありますが、それを上回るデメリットの多い手続きです。そこで、特定調停の利用件数は、非常に少なくなっています。
特定調停の制度ができた当初、2004年には各方面からの期待もあって、約38万件もの申立てがありました。
しかしその後、いろいろとデメリットや使い勝手の悪さがあることがわかり、年々申立件数は減っています。2005年には約27万件に減り、2008年には約10万件になってしまいました。
2010年には約3万件となり、当初の8%以下の利用数となりました。2016年にはさらに減り、わずか3084件にとどまっています。当初利用数のわずか0.8%の数字です。
5-2.特定調停の終了原因
特定調停は、どのようにして終了することが多いのでしょうか?
実は、もっとも多いのは「17条決定(調停に代わる決定)」です。
年間に3160件の終了件数がある中で、1682件が17条決定によって終了しています。
実際は、ほとんどの債権者が、裁判所に出席をせず、事前に裁判所に「17条決定をしてください」という通知をしておいて、第2回期日で裁判所が17条決定をする、ということが多いです。債権者が納得しない場合、その後に異議を出すので、結局解決にはつながりません。
2番目に多いのは、取り下げの952件です。取り下げをすると、調停はなかったことになるので、やはり全く何の解決にもなりません。
3番目に多いのは「不成立」の201件です。不成立になった場合でも、何の解決にもならないことは、説明済みです。
4番目に来るのが「成立」の171件です。
つまり、特定調停では、年間を通して3000件程度の申立と終了件数がある中で、話し合いによって調停が成立しているのはたったの171件だけだということです。
この数字を見ると、特定調停はあまり有効な債務整理の方法とは言いにくいことが明らかです。
→http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/252/009252.pdf
6.特定調停が向いている人
それでも特定調停をしたい、という方がいるかもしれません。
特定調停に向いているのは、以下のような方です。
- 借金額があまり大きくない
- ある程度支払い能力に余裕がある
- 弁護士費用をかけたくない(費用を抑えて債務整理したい)
- 債務整理手続きに時間や手間をかけても惜しくない
7.特定調停をするかどうか迷ったら
以上のように、特定調停は自分一人でも手続きすることができますが、リスクやデメリットが大きいので、本当に特定調停を利用すべきかどうかについては、慎重に検討することをお勧めします。
自分一人では適切に判断できない場合、一度、弁護士に相談に行ってみると良いでしょう。
弁護士から、任意整理や個人再生、自己破産などの他の債務整理方法についての説明を受けて、それでも特定調停がいいと思ったら、特定調停に取り組みましょう。
借金問題を放置しておくと良いことは1つもないので、どのような方法でも、早めに債務整理をして、解決してしまいましょう。